2023.12.08
12月8日(金)より全国公開の映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』。
SNSを中心に話題を集めた汐見夏衛の同名ベストセラー小説の映画化。
戦時中の日本にタイムスリップした現代の女子高生と、特攻隊員の青年の切ない恋の行方を描いたラブストーリーです。
人を愛すること、大切に思うこと、共に生きること−−。
今では当たり前のことが許されなかった時代に出会った、福原遥演じる親にも学校にも不満を抱える現代の女子高生の百合と、水上恒司演じる戦時中の特攻隊員の少年・彰の”時を超えた愛”が交差する、涙なしでは見られない感動作です。
公開に先立ち、千種区星が丘の「椙山女学園大学」で試写会前にスペシャルトークイベントが開催されました。
愛知県在住で元高校教師の原作者・汐見夏衛さん、西麻美プロデューサー、椙山女学園大学・高橋麻織准教授の3名が登壇。
高橋准教授が、汐見先生と西プロデューサーの2人に原作や映画についての話を聞く形でトークが進められました。
高橋准教授:一足先に本編を拝見させていただきましたが、主演のおふたりの瑞々しい演技と、メインビジュアルともなっている百合の花の映像がとても美しく、印象的でした。まずは、汐見先生に原作小説執筆のきっかけをお聞きできればと思います。
汐見先生:私は以前、愛知県内で高校の国語の先生をしていました。夏になると、戦時中のお話を題材にした教材を扱うことが多かったのですが、その中で、今の若い世代の方々にとっては、戦争はひいおじいちゃん・ひいおばあちゃんの時代の話、遠い時代の話になっているなと感じることが多かった。
私は、祖父母が戦争を経験していて、小さな頃から戦争に行った話や、生活に苦労した話を聞いていたので、「おじいちゃん、おばあちゃんはこんな生活をしていたんだなぁ」と、戦争を身近に感じていたのですが、若い子たちにとっては“教科書の中の話”になって、こうして徐々に忘れられていってしまうのかなと。でも、この歴史をやっぱり忘れてはいけない、何かできないかと考えました。
戦争の話とか体験談とかを使ってもちょっと怖い話で目を背けたくなるっていう子がいて、その気持ちもわからないでもないなって…例えば小説っていう形でフィクションにして、少しちょっとマイルドな形で書けば、今の若い子にとっても読みやすく、心に入っていきやすいんじゃないかなと。ちょうど趣味として小説を書いていたこともあり、戦争をテーマにした小説を書いてみようと思ったのが1番の執筆のきっかけでした。
高橋准教授:西プロデューサーも、映画化されたきっかけをお聞きかせいただけますか。
西プロデューサー:先生のお話に通じるところがあるのですが、生まれが長崎で、夏休みになると1ヶ月ぐらい祖父母の家によく帰ってたんですけれども、その時に「硫黄島からの手紙」などの映画を見ていて、祖父は戦争に行っててもおかしくない年齢だったので、「そういえばどうだったの?」みたいな話をしました。そうしたら祖父は体が細くて戦争には行けなかったことを話してくれて。それに負い目を感じていたのか、祖父は戦争映画をよく観ていて、私も一緒に観ていました。
そうした経緯があり、この仕事に就いた時に、いつか自分が思う戦争映画を作りたいと思っていました。私は『男たちの大和/YAMATO』のような戦争映画も好きなのですが、自分が作るとなった時にどうなんだろうと。そう思っていた中、3年半前に先生の小説と出会いました。
後書きなども拝読して、「これだったらもしかしたらできるかもしれない」と思って3年間かけて 今日まで至ったという感じでございます。
高橋准教授:西プロデューサーの話を聞いて思ったのですが、戦争だけを題材にして作品にするってこともあると思うんですけど、現代の女子高生が、戦時中にタイムスリップしてしまうっていう設定が面白いですよね。設定の意図があればお願いします。
汐見先生:私の中で若い子たちに知ってほしいという気持ちがあったので、戦時中の10代の女の子を主人公にした話を読んでくれるかって言ったら、多分読んでくれないと思うんですね…。じゃあ、みんなに近い現代の少女が過去を知るっていう形を入り口としたらちょっと読んでみようかなって思ってもらえるんじゃないかと。
この作品は元々小中学生が主なユーザーのネット小説のサイト「野いちご」っていうところで書いていたのもので、やっぱり恋愛ものを読みたいっていう気持ちで見に来ている方が多いので、現代の女の子が恋愛をするっていう中で、 その場所が戦時中だったら、ちょっと読みやすいんじゃないかな、興味を持ってもらえるかなって思いそういう設定にしました。
高橋准教授:それはすごい感じましたし、この作品の良いところだなっていう風に思います。今、主人公の設定というお話がありましたが、原作では主人公が女子中学生で、映画になると女子高生に設定が変わっていますが、その点について教えてください。
西プロデューサー:主人公百合ちゃんの設定を高校生にあげたっていうのは、14歳の女の子と20代の男の人の恋愛って、活字や漫画だと、あまり違和感を感じないかもしれないんですけど、実写でやると、ちょっと違和感を感じるんじゃないのかなっていうことを踏まえて、ご相談というか、「高校生にさせていただきたいです」っていうお話をさせてもらって、脚本では女子高生にしたっていうのもあります。
あと、百合ちゃんの設定なんですけれども、原作ではお母さんが水商売をやっていて、反抗のきっかけになってるみたいな。それででお父さんはもう最初から知らない、お父さんを知らないんだみたいな設定なんですけど、映画にするにあたって、高校生にしたっていうこと、付随して、もっとこう、もう少し大人な理由で反抗しているってことにした方がいいんじゃないかっていうのがあって。
お母さんは、きちんとお昼の仕事を苦労してやっているのに、ちょっと腹が立つというかですね。あとお父さんも実は溺れた自分の子供じゃない子供を助けて死んでしまっていると…それが人のために死んでいくっていう特攻隊にちょっと被っていく。百合の「(人を助けても)自分が死んだら意味がない」という怒りに繋がっていくような設定にしました。
高橋准教授:映画の中では、史実がわかっている現代の視点で百合が発言してしまい、警官に問いただされるシーンが心に残りました。この場面への思い入れなどはありますか?
西プロデューサー:この話を書く上で一番ポイントになっていたのは「現代の常識と当時の常識がどれぐらい違うか」ということ。時代と場所が変わるだけで、まったく変わってしまう常識の脆さというか、どちらが間違っているといったことではなく、時代と場所によって育まれてきた常識というのがあって、それが影響しているということを描きたかった。
当時の軍国教育で育まれた考え方も、その時代では仕方のないもので、本当に国のためを思う気持ちが強い警官と、一方で、現代の価値観で、命がかかっている戦争を見て正しいとは考えられない百合が衝突する場面は、その象徴として入れたかったんです。
映画では見てくださった方が、やっぱりこんなにもう常識が場所や時代によって違うんだっていうのをやっぱり感じて、そこから色々考えるきっかけになってほしいなと思って、大事に思っているシーンです。
高橋准教授:すごくわかります。普通に生きてると、あんまり感じないですが、例えば、別の地域に行ったり、別の国に行ったりすると、常識が違う、文化が違うとか、そういうことは経験すると思うんですけれども、時代が変わって、こんなに変わるのかっていうのは、普通に経験はできないので、そういうところを皆さんに学んでいっていただきたいです。
西プロデューサー:そうですね、映画をご覧になった方が、そうしたことを感じて、色々と考えるきっかけにしていただけたらと思います。
西プロデューサー:こういった場に立つと、思いがほとばしって戦争がどうのとか言ってしまうのですが、今日ご覧いただいて、少しでも面白いと思っていただいたら、周りのお友達やご家族にすすめていただければと思います。
汐見先生:まとまりのない話になってしまったのですが、こんなにもたくさんの方が来てくださり、しっかりと話を聞いてくださったことに感激しました。映画はもちろん原作とは異なる形の作品なので、「こういう意図で、きっとこうしたんじゃないか」と考えるのも楽しいと思いますし、原作を知ってくださっている方も楽しんでいただける、学びの機会にしていただけるのではないかと思います。
目覚めると、そこは1945年の日本
初めて愛した人は特攻隊員でしたー
親や学校、すべてにイライラして不満ばかりの高校生の百合(福原遥)。
ある日、進路をめぐって母親の幸恵(中嶋朋子)とぶつかり家出をし、近所の防空壕跡に逃げ込むが、朝目が覚めるとそこは1945年の6月…戦時中の日本だった。
偶然通りかかった彰(水上恒司)に助けられ、軍の指定食堂に連れていかれる百合。そこで女将のツル(松坂慶子)や勤労学生の千代(出口夏希)、石丸(伊藤健太郎)、板倉(嶋﨑斗亜)、寺岡(上川周作)、加藤(小野塚勇人)たちと出会い、日々を過ごす中で、彰に何度も助けられ、その誠実さや優しさにどんどん惹かれていく百合。
だが彰は特攻隊員で、程なく命がけで戦地に飛ぶ運命だった…。
【監督】成田洋一
【原作者】汐見夏衛
【脚本】山浦雅大 、成田洋一
【出演】福原遥 、水上恒司、伊藤健太郎、嶋崎斗亜、上川周作 、小野塚勇人、 出口夏希、 中嶋朋子、 坪倉由幸、松坂慶子
【配給】松竹
©2023「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」製作委員会
2023.12.08