無色から色づく音の旅へ
2年ぶりの新アルバムに
込めた挑戦の想いとは?
愛知県一宮市出身のヴァイオリニスト・高松亜衣さんが、約2年ぶりとなる新作アルバム「Colorless(カラーレス)」を11月5日(水)にリリース。タイトルを直訳すると無色。
6年前、デビュー時のリサイタルで掲げたテーマ「Colorful(カラフル)」とは対照的なこのタイトルにはどんな想いが…。ブラームスの「雨の歌」、ヴィエニャフスキの「華麗なるポロネーズ」、そしてオリジナルの「竹取物語」。3曲に込められた物語と、新しいスタートへの決意のほどを伺いました。
カラフルからカラーレス
6年越しの原点回帰とは?
「大学を卒業して初めてのリサイタルで「カラフル」というタイトルをつけたんです。聴いてくださる方の帰り道が少しでもカラフルになったらいいな、そんな願いを込めて」と語る高松さん。
そこから6年の月日が流れました。全国各地での公演を重ね、音楽活動の幅も広がった今、高松さんがあえて「カラーレス=無色」というアルバムタイトルを選んだ理由とは?
「この6年間で色々な経験をさせてもらって、改めて自分の音と向き合いたいと思ったんです。カラーレスは、色を失うというよりも、色が生まれる前の状態。ここからもう一度、ゼロから始めたいという意味を込めました」。
自分の色を見つめ直す挑戦の記録。「Colorless」は高松さんにとって再出発のアルバムであり、無色から再び世界を彩る、そんな希望がこの一枚に込められています。
収録曲①
ブラームス
ヴァイオリン・ソナタ第1番
ト長調 作品78「雨の歌」
1曲目は、クラシックファンにも人気の高いブラームスの名曲「雨の歌」。この曲を選んだのは、高松さんにとって特別な意味があるから。
「大学卒業のときに初めて弾いた曲なんです。あの頃はまだ演奏することで精一杯でしたが、今はようやく、作品と向き合うことができるようになった気がします」。
ブラームスが親しい友人であるシューマン夫妻の子どもの死をきっかけに完成させたと言われるこの曲は、哀しみの中にも優しさが宿る旋律が特徴。
「明るい調性の曲ですが、内省的で深い世界を表現するためには、感情をおさえながら弾く必要がありました。レコーディングでは、テンションを上げずに心を静かに保つことに集中しました」と、高松さんは語ります。
約30分にもおよぶ大曲を録音した後の安堵と達成感は格別だったそうです。
収録曲②
ヴィエニャフスキ
華麗なるポロネーズ第1番
ニ長調 作品4
2曲目は、19世紀の名ヴァイオリニスト、ヘンリク・ヴィエニャフスキによる「華麗なるポロネーズ 第1番」。
「ヴィエニャフスキは超絶技巧の代名詞のような作曲家。華やかな音の流れや広い音域を使った展開は、ヴァイオリンという楽器の魅力を最大限に引き出してくれます」。
1曲目が内に向かう静けさだとすれば、こちらは外に広がる輝き。
「ブラームスの内省的な世界と対比するように、ヴィエニャフスキではヴァイオリンの楽しさや力強さを思いきり出しました」と、満足感あふれる素敵な笑顔を見せてくれました。
収録曲③
高松亜衣
ヴァイオリン・ソナタ「竹取物語」
(編曲:後藤沙希乃)
アルバムのラストを飾るのは、高松さん自身のオリジナル曲「竹取物語」。
「日本で暮らす自分がヴァイオリンを弾く意味を考えたとき、そこには日本の文化や物語が、ひとつのテーマとして必要と考えました」。
「竹取物語」は、誰もが知るかぐや姫の伝説です。クラシックの形式であるソナタと、日本最古の物語を融合するということは?
「ヴァイオリンという西洋の弦楽器で、日本的な情景をどう表現できるかに挑戦しました。竹のそよぎや月夜の静けさ、かぐや姫の心の揺れなどを音にしていく過程は、すごく楽しかったです」。
作曲にあたっては、編曲者の後藤沙希乃さんとも綿密な相談を重ねたそう。
「自分は演奏家なので、作曲家の視点を持つ方に意見をもらいながら進めました。どうすれば聴き手に物語として伝わるかを一緒に考えて形にしていきました」。
制作現場で感じた
音と向き合う時間
2日間のレコーディングは、集中力と精神力の勝負だったと高松さん。
「CDの制作は、だんだん視界が狭くなっていくような感覚。最後は音とだけ向き合う時間でした。特に「雨の歌」は長丁場で、心を落ち着けながら保っていくのが大変でした」。
その中でも彼女が大切にしたのは勢いではなく、一音一音の向き。
「Colorlessというタイトルに合わせて、何もないところから生まれる音を意識しました。派手さよりも、音そのものの輪郭や余白を大切にしたかったんです」。
どんなときも
心に寄り添う作品に
「嬉しいときも悲しいときも、何も聴きたくないときも。どんな状態でもすっと入ってくる音楽にしたかった」と語る高松さん。
「例えば落ち込んだ日にブラームスを聴いたら、慰めではなく、ただ、そこにある音として寄り添ってくれると思います。一方でヴィエニャフスキは気分を上げたいときにぴったり。「竹取物語」は少し現実を離れて、空想の世界に浸りたいときにもお勧めです」。
そして「Colorless」は、普段クラシックを聴き慣れていないという人にも届けたい一枚でもあります。
「難しく考えず、コーヒーを飲みながらでも、夜に静かに灯りを落としてでも、自由に聴いてもらえたら嬉しいです」。
Colorlessツアー初日の
11/5(水)に名古屋公演
愛知県一宮市出身の高松さんは高校時代までは地元で過ごし、その後に上京。「今でも地元の空気は落ち着きますね」と話しながら、ナゴヤドットの読者に、こんなメッセージを。
「地元公演は特に思い入れが強いので、11月5日(水)ツアー初日の名古屋公演では、ぜひ同じ時間を共有できたら嬉しいです」。
クラシックを聴きながら
自分と静かに向き合う時間を
最後に、音楽を通じて伝えたいことを尋ねると「クラシックって難しそうと思われがちですが、実は自分と向き合う時間なんです。スマホを置いて、静かな空間で音と一緒に過ごすことで、自分の気持ちに気づけたり、考えが整理されたり。そんな穏やかな時間を皆さんに届けたいと思います」。
「Colorless」は色を失うのではなく、色が生まれる前の静けさを描いた作品。ブラームスの深い情感、ヴィエニャフスキの華やかさ、そして日本最古の物語を紡ぐ竹取物語。
それぞれが異なる音の色を放ちながら、聴く人の心に新しい彩りを灯します。
「最初は無色でも、聴き終えた後に何かの色を感じてもらえたら嬉しい」と語る高松さん。
その言葉通り「Colorless」は、聴く人の心をときに優しく、ときに華やかに染めてくれる一枚となるでしょう。
Information
リリース情報
Colorless
11/5(水)リリース
※公演先行販売を実施。会場特典としてオリジナルポストカード付き。
【収録曲】
①ブラームス
ヴァイオリン・ソナタ第1番 ト長調 作品78「雨の歌」
②ヴィエニャフスキ
華麗なるポロネーズ 第1番 ニ長調 作品4
③高松亜衣
ヴァイオリン・ソナタ「竹取物語」
(編曲後藤沙希乃)
ツアー情報
①高松亜衣 Colorlessツアー
名古屋公演
11/5(水)熱田文化小劇場
18:00開場・19:00開演
一般5,000円
※その他、東京公演(11/15※完売)・神戸公演(11/21)・札幌公演(11/28)もあります。
②旅するクラシック3大都市ツアー2025
名古屋公演
10/28(火)守山文化小劇場
18:00開場・18:30開演
ビジネスクラスA席6,600円