―――好きだけでは どうしようもない
『愛がなんだ』の今泉力哉監督が手掛ける最新作 映画『his』が1月24日(金)より絶賛公開中。W主演を飾る宮沢氷魚さん、藤原季節さんにインタビューを行いました。
―2人の男子高校生・迅と渚を描いた連続ドラマ「his〜恋するつもりなんてなかった〜」(2019年春オンエア)から8年後の世界が描かれる今作。役作りはどのように?
(宮沢さん)以下:宮)ドラマはあえてクランクインする前、見てないです。演じる人間も違うし、年月も経っているので。そこを引きずることで世界観が狭まってしまうのが怖くて。僕たちは僕たちなりの、迅と渚を作っていけたらなと最初から思っていました。監督は基本僕たちに、好きなように芝居をするチャンスをくれて。その後意見を交わしながら役を作っていきました。
(藤原さん)以下:藤)最初監督は、本読みで宮沢氷魚の芝居を見て驚いてましたね。迅ってこういう人なんだ~って(笑)
宮)監督の想像していたキャラクターよりも、だいぶ低い(暗い)トーンから入っていたみたいで「迅って暗いんだね」って。僕はそのイメージしかなかったんですけど、それを言われた瞬間は「まずい!」って思いました。
藤)僕は、氷魚くんが(芝居に対して)真っ向勝負するような人なので、なんで僕がその相手に選ばれたのかっていうのを意識しましたね。自分にしか投げれない玉があるんじゃないかって。なので必然的に渚は迅と違う人間になっていきました。
迅と渚の恋愛ストーリーに加え、LGBTQと社会、親権を争う法廷劇、シングルマザーの現状なども描かれます。役をもらった時の感情と、撮影にどのような気持ちで挑んだのか教えてください。
宮)最初に話をいただいた時は、果たして迅になれるのだろうか。この役を理解して、渚を好きになれるのだろうか。という不安がありました。でも、それに優る楽しみもありました。僕男子高校でだったので、同性愛者の友だちもいて、それが当たり前だと思ってきたんですけど。実は社会に出てきたら、それが普通じゃなくて。偏見や差別の目で見られている友達を見て、何かしてあげたいじゃないですけど。この現状を変えたいと切に思っていたので、それがようやくできるかもしれないという希望が、すべての不安やプレッシャーを忘れさせて、この作品と前向きに立ち向かえました。
すべての撮影が終わって、今の方が逆にプレッシャーを感じている部分があるかもしれないです。自分たちが命をかけて作ったものを、周囲がどう受け入れてくれるのか。いい映画だったよね~ってみんながみんな賛同するよりも、いろんな意見がぶつかりあって話し合ってもらえるような作品になればいいなと思います。
藤)僕も、撮影の時もプレッシャーを感じていたのですが、今感じているプレッシャーの方が大きいかもしれません。差別的な目で見てないって思っていても、ちょっとしたことで相手を傷つけていることってあって。そういう古い価値観がまだ自分の中にあるんじゃないか、迅と渚が傷つくことを知らず知らずのうちに言ってしまっているんじゃないかって、今特に僕らは敏感になっています。この作品を通して、皆さんの心を豊かにできたらと思います。
今作のハイライトとも言える親権を巡る裁判のシーン。印象に残っていることはありますか?
藤)裁判のシーンでは、僕が唯一迅と離れて一人でいる、特別な時間でした。戸田恵子さん、堀部圭亮さんらのそれぞれの思いも全部がぶつかり合う場所で、すごい時間でしたね。あの裁判所のシーンでは、僕のリアルな混乱状態が表情に表れていると思います。
宮)僕は白川での撮影がメインで、裁判所のシーンはあまり絡んでいないんですけど。現場に行ったら(白川と)全然空気感が違って、感覚としては全く別の映画みたいでした。裁判のシーンに参加したときも少し怖くて、居づらいというか。迅の気持ちも入っていたと思うんですけど、独特な空気感でしたね。
メガホンを取るのは、恋愛映画の旗手・今泉力哉監督。撮影現場の雰囲気はどうでしたか?
藤)スタッフの方たちは戦場のように戦ってましたけど、僕らはのほほんとしてました(笑)あたかもカメラがないかのような生活感というか。
宮)役もスケジュールも大変でしたが、終わってみて思うのはすごい楽しい現場だったなあってこと。みんながいいものを作りたいっていう同じ方向を向いていたので、居心地がいいというか。誰一人としてこの作品にかけてない人がいないというか、みんな120%の力で挑んでいて、楽しくもあり熱い現場でしたね。
今作のロケ地・岐阜県白川町で10日間の共同生活をされたお二人。どんな日々を送っていましたか?
藤)白川の野菜を食べ
宮)白川の空気を吸って(笑)
藤)寒暖差が激しかったですね。夜は寒くて、昼間はちょっと暑いくらい。あんなに直接、太陽の光を浴びることって、東京じゃなかなかない。
宮)うまく言葉にできないんですけど、言葉に表せられないくらいステキな場所で。もちろん風景とかも素晴らしいんですけど、あそこにいると時間経過も遅く感じるというか。東京にいるとすごい自分が急いでて、時間に追われているんですけど、白川にいるときは、ただ一瞬一瞬を生きてるって感じる。
藤)普段見えないものが見えてくる。
お互いの第一印象と、ギャップに感じたことはありましたか?
藤)僕は、氷魚くんってこんなに素朴な人なんだ!って思いました。自分との共通点を見つけるのが大変かなって思ってたんですけど。スター性を持ちながらも、すごく素朴で。街の人とも気さくに喋っているし。素朴さっていうギャップを感じました。
宮)僕は一緒に住むまで、ちょっと気難しい人なのかなって思ってたんですけど(笑)
藤)そうゆうイメージ結構持たれがち(笑)
宮)素朴だなって思ったというか、いい意味で普通というか。家にいるときは、作品とは関係ない話とか、どうでもいい話とかしたいじゃないですか。それを季節くんとできたので、よかったなって。
藤)僕が窓際で、氷魚くんがテレビ側、って場所も決まってて。リモコンは氷魚くんが独占してました(笑)
宮)あと楽だったのは、沈黙でも苦じゃないこと。沈黙って僕にとって結構大事で、話したいときに話して、話したくない時は話さないっていうのを許してくれる人で、心地よかった。
◆STORY◆
春休みに江の島を訪れた男子高校生・井川迅と、湘南で高校に通う日比野渚。二人の間に芽生えた友情は、やがて愛へと発展し、お互いの気持ちを確かめ合っていく。しかし、迅の大学卒業を控えた頃、渚は「一緒にいても将来が見えない」と突如別れを告げる。
出会いから13年後、迅は周囲にゲイだと知られることを恐れ、ひっそりと一人で田舎暮らしを送っていた。そこに、6歳の娘・空を連れた渚が突然現れる。「しばらくの間、居候させて欲しい」と言う渚に戸惑いを隠せない迅だったが、いつしか空も懐き、周囲の人々も三人を受け入れていく。そんな中、渚は妻・玲奈との間で離婚と親権の協議をしていることを迅に打ち明ける。ある日、玲奈が空を東京に連れて戻してしまう。落ち込む渚に対して、迅は「渚と空ちゃんと三人で一緒に暮らしたい」と気持ちを伝える。しかし、離婚調停が進んでいく中で、迅たちは、玲奈の弁護士や裁判官から心ない言葉を浴びせられ、自分たちを取り巻く環境に改めて向き合うことになっていく――。
映画『his』
宮沢氷魚/藤原季節
松本若菜 松本穂香/外村紗玖良 中村久美
鈴木慶一 根岸季衣 堀部圭亮 戸田恵子ほか
監督:今泉力哉
https://www.phantom-film.com/his-movie/
お話を伺っていても、作品に真摯に向き合い、魂を込めて演じられたことが伝わってきました。プレッシャーに立ち向かい、心を削りながら、演じきった映画『his』。美しくもあり、ハッと気づかされることが多い映画です。現在絶賛上映中。ぜひ劇場でご覧ください。
NAGOYA. ライター