大須観音駅1番出口から歩いて5分ほど、白川公園内にある『名古屋市美術館』で9月23日(土・祝)~11月19日(日)まで特別展「開館35周年記念 福田美蘭―美術って、なに?」が開催されます。
福田美蘭(1963-)は、東京藝術大学大学院を修了後、具象絵画の登竜門といわれた安井賞を最年少で受賞し、国内外で活躍を続ける現代美術家。
現代社会が抱える問題に鋭く切り込み、東西の美術、日本の伝統、文化を、意表を突くような手法で表すなど、既成概念を打ち破る作品が魅力です。
今回の展示会では、古今東西の名画に福田独自のユニークな視点で向き合った作品から、国内外の時事問題をテーマに鋭い視点で切り込んだ作品まで、福田美蘭の世界観で表現した約50点を鑑賞することができます。
-CHECK POINT-
①福田美蘭の個展は中部地区初
②独自の視点や見方で描かれる
③美術館の固定概念をも覆す!
見どころ①福田美蘭ワールドで名画を表現
どこかで一度は目にしたことがある世界的な名画にユニークな視点で迫ります。
名画を“名画だから”というだけで絶対的なものと考えるのではなく、前後の場面を想像したり、異なる視点から見たらどんなふうに見えるのかを考えてみたりすることで、より自由に楽しむことができます。
知っているつもりだった名画の世界に、新しい景色を発見できるかもしれません。
2000年、アクリル・パネル
富山県美術館蔵
実在した人物の肖像画であれば、そのモデルにポーズをとらせて、実際に見て描いたことが考えられます。
その場合、画家は必ずモデルに休憩をとらせるので、ポーズをとっているときのモナ・リザを見る目とは違う自然な視点で、レオナルドは休憩中の彼女を見ていた姿を想像して、レオナルド風に描いた作品。
2002年、アクリル、ピエゾグラフ印刷・特殊紙
山梨県立美術館蔵
ミレーの《種をまく人》は国内所蔵の名画のひとつであり、多くの日本人が古くから親しんできた作品です。
オリジナルは右手を後ろに振って、これから種をまこうとして力をためた瞬間を描いたものだが、実際に絵の中の人物が何をしているのか理解していないのではないかという思いから、その手が前方に向かって振り抜かれ、種が手から放たれた瞬間に描き直しています。
現代において名画を見るということ、知っているということの不確かさについて考えた作品です。
2016年、アクリル・パネル
平塚市美術館蔵
菱川師宣の《見返り美人図》は、当時流行の帯の結びと鮮やかな衣装といった現実に目にしているものを描きながらも、写実ではない、あくまでも師宣の江戸の理想の美人像であることで、見る者を強く引き付ける描写となっている作品。
今回は、そんな師宣の理想の世界を、絵画の中で鏡に写すことで、そのリアリティを実体のある姿として見てみたいと、無背景を角度と向きの違う6枚の鏡面に見立てて、そこに映り込む姿をイメージして描いています。
見どころ②固定概念を覆した作品鑑賞
額縁は平らで壁に平行にかかり、展示室では作品に触れることは禁じられている…
美術館では作品保全の観点から、様々な制約とともに鑑賞することがルールとなっていますが、福田美蘭は、こうした固定観念を覆す作品を制作。
《開ける絵》では、キャンヴァスは折りたたまれていて、鑑賞者が自分の手で開けないと、絵を見ることはできません。
福田美蘭は、主体的に鑑賞するとはどういうことかという問いを私たちに投げかけているのです。
福田美蘭《開ける絵》2000年
アクリル・パネル、額縁、鉄、ゴムバンド
作家蔵
この作品は、二つ折りになった状態で壁に掛けられていて、自由に手で開けて鑑賞することができる、作品に触ってはいけないという固定概念を打ち破った作品。
開けた後は自然に閉まるようになっています。
美術館などで、額に入った絵画を鑑賞する場合、順路に従って、最適な照明と、絵と絵の間隔、また近寄って触ってはいけないという暗黙の了解など、与えられる状況を当然のことだと思っている中で、どれだけ自発的にその絵を観ようとしているかということが考えられています。
見どころ③社会問題などを絵画に
アメリカの同時多発テロ事件、東日本大震災、新型コロナウイルス感染症の拡大など、現代社会では世界を揺るがす出来事が…。
そんな混沌とした世界を生き抜く上で必要なのは、ものごとを冷静に見極める力。
福田美蘭は様々な社会問題を注意深く見つめ、分析し、絵画化しています。
人間が手で描く絵画は、現代においては究極のアナログともいえる手段ですが、確かな技量と深い洞察によって、福田美蘭の作品は説得力を持って問いかけています。
2008年、アクリル・パネル
富山県美術館蔵
福田美蘭が大学生の頃に、切り取って集めたものの中から見つけた写真はビルの高層階からの眺望。
9・11で航空機が激突したWTCビルの展望台。
写真を切り抜く当時の、ニューヨークが好きだった気持ちと、この展望台は存在しない事実が混在する中、同じ写真から受ける印象の隔たりは、福田美蘭にとって経験したことのない衝撃。
その驚きも記憶として薄れていくと思い、写真をそのまま拡大して描いた作品。
福田美蘭《ゼレンスキー大統領》 2022年
アクリル・パネル、練馬区立美術館蔵
2022年9月から東京・練馬区立美術館で開催の「日本のマネ-出会い、120年のイメージ-」の準備とともにロシアによるウクライナ侵攻が始まり、福田美蘭がこの危機をどう捉えるか作品にする上で、連日報道されるゼレンスキー大統領に、マネの現実認識による曖昧さそのものをイメージした絵画について考えたそうです。
ゼレンスキー大統領がまっすぐこちらを向いてスピーチするその視線と目が会うとき、悲惨な動画よりもさらに、この戦争がSNSという武器によって、サイバー攻撃や偽情報による心理戦など、その情報を見極める能力が求められていると…。
膨大な情報が混在する中、現実は不明瞭であるという現実表象の不確定な時代を、マネは絵画によって目に見える形にしたのでは、と考えるに至った作品。
イベント名:開館35周年記念 福田美蘭-美術って、なに?
開催場所:名古屋市美術館(名古屋市中区栄2-17-25)
電話番号:052-212-0001
開催期間: 9/23(土・祝)~11/19日(日)※月曜休館(10/9開館のため翌日休館)
開催時間:9:30~17:00※11/3以外の金曜は~20:00
料金:一般1,500円、高大生1,100円、中学生以下無料
公式サイト:https://static.chunichi.co.jp/chunichi/pages/event/fukudamiran/
福田美蘭の自由な発想や常識を覆す作品を鑑賞して、芸術の秋に“美術とは何か?”を考えるきっかけにしてみては
NAGOYA.ライター。